古くからの伝統を紡ぎながら
「わたしいろ」のうつわを
兵庫県丹波篠山市周辺で作られる丹波立杭焼。
「日本六古窯」のひとつとしても知られています。
その中でも江戸時代から続く、
古い歴史を持つ窯元「丹窓窯」。
イギリス発祥である「スリップウェア」を施し
日本人が慣れ親しんだうつわを作られています。
八代目市野茂子さんが作るうつわは、ぽってりとしていて
女性らしく、柔らかい雰囲気で手に取った際に
気分をほっこりさせてくれます。
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01 うつわ作りを楽しむ
和やかで柔らかい雰囲気のある丹窓窯8代目・市野茂子さん。
茂子さんのご主人である7代目・市野茂良さんが亡くなられてから、
娘の公子さんと一緒に”スリップウェア“のうつわを作られています。
茂子さんが作るうつわは女性らしさが溢れていて、どこか優しさが感じられる、
そんなうつわばかりです。
うつわ作り以外でご趣味はあるのかお尋ねすると
“やきものが趣味”と答える茂子さん。
「(うつわ作りは)楽しいと思えるので続けられるの。
逆にしない日の方がしんどいくらいやね。」とのこと。
特に楽しみなのは窯から出す時で、登り窯は自分が思っていた以上に
良いものが出来上がったりするそうです。
お話をする中で、茂子さんの人柄がそのままうつわに写し出され、
素敵なうつわができているのだと感じられました。
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02 スリップウェアで魅せる
優雅で滑らかな曲線丹窓窯のうつわの特徴であるスリップウェアは、
イギリスの陶芸家であるバーナードリーチ氏と、
茂子さんのご主人・茂良さんとの出会いが始まりです。
生乾きの素地に、 水と粘土を適度な濃度に混ぜ合わせた
“スリップ”と呼ばれる化粧土で装飾して作る“スリップウェア”
イギリス発祥のスリップウェアは、大きなうつわが多く、模様もどちらかと言えば
力強いイメージのものが多かったそうですが、茂子さんが作られるうつわは
日本人に合った豆皿などの小さなうつわや、お茶碗などもたくさん。
女性らしいデザインで細やかな模様のものが印象的です。
うつわに描かれた曲線は、優雅で滑らか。
どこか素朴でほっこりするような雰囲気を放ちながらも、凛としているうつわです。
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03 積み重ねられた経験と技
うつわの形やフチの大きさによってデザインを変えたり、模様を決めているという茂子さん。
細かいものやスポイトで模様を描く“イッチン”と呼ばれる技法を得意とされています。
手でろくろを回しながら、スポイトから化粧土を押し出し、スーッと線を引いていきます。
「力の入れ具合によって出し過ぎると塊になってしまうからね、とても難しい」
通常の焼き物は素焼きをしてから釉薬をかけたり、彫ったりしますが、
スリップウェアは素地にそのまま化粧土をかける“生掛け”であるため、一度失敗をすると
修正することが難しく、集中しながら作業をしなければなりません。
そこからさらに、化粧土が乾かないうちに手作りの竹の串で均一になるよう模様を描いていきます。
乾いた状態で模様を描いてしまうと、素地が彫れてしまうので素早く手際よく作業をこなします。
スリップウェアを作り続け、40年以上にもなる茂子さんだからこそできる職人の技がそこにありました。
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04 時間と愛情をたっぷりかけて
スリップウェアを作るうえで、肝となるのが“天候”
うつわ作りには元々、素地を天日で乾かす工程があるため天候に左右されますが、
特にスリップウェアは“生掛け”で模様を描いていくため、その日の天候によって
作業に大きく影響が出るそうです。
素地を作り、乾かし、高台を削り終えてから天気の良い日にスリップをするそうですが、
天候の悪い日が続くと、素地のまま何日も置いておかなければなりません。
うつわを棚板に置いておくと乾きすぎるので、あまり乾かしてしまわないように
調節しながらスリップができる日を待ち、天候の良い日にスリップし、
外で天日干しをします。
数々の工程を経てじっくり時間をかけて作り上げられたうつわには
茂子さんの愛情がたっぷり詰まっています。
丹窓窯の作品をこだわりのギャラリーに展示しています。
日本の昔ながらの建物の中に並ぶたくさんのうつわたち
小さな豆皿からお茶碗、カップ、エッグベーカー、大きなうつわまで
様々なうつわがありました。
茂子さんのご主人の作品や、バーナードリーチ氏と撮られた写真も飾られ、
長い歴史を感じられるギャラリーです。